30 「子どもたちと性を語り合うためのゼミナール」構想(その1)

 祇園祭前祭の日の2023.7.17にコロナ発症して今日で1週間。発熱は翌18日で収まったが、時折激しい咳き込みが起こる。長くは続かないのだが体にはダメージがある。発症した日は運良く祝日で新潟大授業は休講だった。金曜に対面で行なっている京都女子大授業は、まだ「安静推奨」期間なので、休講にして、その後の回復過程もどうなるかわからないので、1回欠損としたまま授業を終わりたいと大学に連絡したが、認められなかった。zoomリモート授業については受講に不安があると受講生から連絡があり、アンケートを取ると希望しない受講生の方が多い(受講生は2回生主体で昨年度入学なので、zoom授業の経験が少ないようだ)。大学はオンデマンドを進めるが毎回討論の僕の授業はオンデマンドでは実施できない。結局zoomは使わずに、事前に送付した授業通信で段取りを指示しておいてTeamsをチャット的に活用したグループ討論という形でなんとか7/21の授業を終えた。疲労が残り、昨日7/22も数時間しか7/24新潟大授業の準備ができなかった。
 夜中も突然咳が出て起きたりする。その後なかなか眠れない中で、後期の「ジェンダーと教育」の授業改善案などとともに、これから書くプランが頭に浮かんできた。明日の新潟大授業準備もある中だが、忘れないうちに書き留めることにした。

 病気でしんどい中、大学の授業の準備をして実施するのはしんどいんだけど、それでも授業をすることが自分にとって生きがいになっていることはこういう時にも感じる。
 しかし数年後には大学非常勤講師生活からのリタイアがやってくる。新潟大については(もちろん単年度毎の依頼を受けているのだが)年度当初の4月で70歳になっている2025年度が最終であろうと聞いている。京都女子大はわからないのだが、たぶんあまり変わらないだろう。大学の授業での担当者としてのアウトプットと受講生とのレポート通読・コメント等を通じてのささやかな交流。これがなくなったとき、自分の生きがいをどこに置くのか? もちろんこれまで時間がなくて読めなかった本を好きに読めるし、仕事に追われなくなった日常において楽しめることもあるだろう。また、授業はなくなっても「京都教育科学研究会」や「子どもを語ろう会」、「教育の事実に基づいて教育実践を語る会」、「北大ワロン研究会」という研究交流の場に今後も参加していく(学会は「日本臨床教育学会」だけを残して退会しようと思っている)。それらだけで十分に忙しく楽しいだろうとも思う。

 だが、「授業」。
 大学をリタイアするのにさらに「授業」を続けようという気はないのだが、教育についての自分の考えを話して他のメンバーの意見を聞くことで考えを深めるような機会を持ち続けたい気持ちはある。もちろん研究会でもそのことはできるが、それはあくまで研究会の流れに沿った参加のしかたでなければならない。既存の研究会と違ってゆるやかな共通テーマの下に自由に語り合えるような場がほしい。僕自身も話題を提案するが、他のメンバーにも自由に提案してもらう。
 これまでやってきている大学の授業のようなものを再現しようというわけではないので、「ゼミナール」という名称を考えた。三重大時代までに担当していた卒論に向けた研究室ゼミのようなものではない。特定のテーマについて僕が参加者を《啓蒙》するような場を持ちたいわけでもない。性sexualityについて、子どもたちの性に関する学びについて、大人がそうした子どもたちの学びについてどう関わっていけるかについて、いろいろな人たちと自由に語り合いたい。僕がこれまで30数年間取り組んできたsexuality educatioの研究・実践についても話題提供したが、それを《教える》というのでなく、他のメンバーの意見を聞くために提案したい。

 内容もこんな風にまだ固まってもいないものだが、ゼミナールの運営のしかたも考えてみた。取り敢えず思いついたことから列挙してみる。
(1)zoomのミーティングを基本的な交流の場とする。
(2)会員制にする。会費は取らない。佐藤へのメール告知でいつでも入会・退会できる。
(3)入会申込に必要なものは、メールアドレス・名前(本名を推奨・しかし強制しない)・プロフィール(入会申込にあたり本人が佐藤に告知することが必要と判断する範囲で)。
(4)佐藤は参加者の上記(3)の3項目の個人情報について、他の参加者に教えないことを確約する。
(5)zoomでの交流において(3)の個人情報を他の参加者にどのように開示するかしないか(例えば、ミーティングに実名で参加するかペンネームで参加するか)は、各参加者の判断に任せる。
(6)「子どもと性を語り合う」という共通の話題についての交流の方法は、zoomの画像・音声によるコミュニケーションを基本とする。
(7)佐藤を含むzoomミーティング参加者は、ミーティングの音声録音を行なってはならない。また、下記(8)の手続きを経て参加者にシェアされた情報を除いて、ミーティングで提示された文字・画像情報等をスクリーンショット等により個人的に保存してはならない。
(8)ミーティングでの報告・発言の際に文字情報や画像情報等を紹介したい場合には、zoomの「画面共有」機能で提示する。報告者が提示した情報を他の参加者が共有・保存してもかまわない場合は、その日のミーティングの最後にチャット欄にファイルをアップロードする。但し、ファイルのアップロードが表示されないデバイスもあるので、その場合はチャットにシェア希望であることを投稿し、事後に当事者同士で連絡を取る。
(9)ミーティングの他の参加者の発言内容について、ミーティングの外で無断で紹介してはならない。ぜひとも紹介したい場合には、必ず発言者本人の了解を得た上でとする。同様に(8)のシェアが可能なファイル等についても、ミーティングの外に公表したい希望がある場合は、必ずオリジナル作成者の許可を得ること。

 …細かすぎてつまらないルールかもしれない。クレジットカードなりなんなりの契約の際の約款のように、こういうものをさらに長々と書き連ねて「認める人だけこの指止まれ」にするつもりはさらさらない。ここ数年いくつものzoom研究会に参加して経験したこと、感じていたことを、新しくつくるゼミナールを楽しく和やかに運営するために活かしたいと思うだけである。
 いろいろ懸念すべき事項があると考える理由の第一は、「子どもたちと性を語り合うためのゼミナール」をzoomを主体としたネット上で運営したいと考えているからだ。もちろん僕の呼びかけに対してこれまで僕が知りあってきた人たちが応じてくれて、既知の人を中心にこのゼミナールが成立するならそれはそれでよいのだが、このブログとFacebookの公開投稿でゼミナールの結成を告知して開催を呼びかけた場合、僕にとって未知だった人もアクセスされる可能性がある。そのことも期待して、知人に一人一人メールで呼びかけるというやり方ではなく、ネット上での呼びかけで始めようとしている。
 そして不特定多数に呼びかける以上は、悪意のあるアクセスとか悪い意味での「興味本位」のリスクも考えておかなければならない。上記のルール案群は、そうした悪意/興味本位のアクセスから参加メンバーの個人情報や安寧な生活を守ることを意図して設定したものだ。
 もう一つの理由は、性sexualityをめぐる問題が一人一人の人間のprivateな意識や感情や行動と深く関係しているからだ。このことは伝統的に学校や家庭での性教育がためらわれることの背景にもなっている。元来、性sexualityとは人間において自然にそなわっているものであり、大切な営みであり、これを語ることをタブー化することは間違っている。しかしだからといって、性sexualityに関係するいかなることもオープンに語ったり暴露していいものではない。性を語るルールやマナーを模索していくことが必要なのだが、日本の学校教育の貧困と相俟ってこの作業は遅れている。こうした状況で性について自らpositiveに語り、また子どもたちとも語り合っていきたいと希望する人がゼミナールに集まってきてくれるならば、ゼミナールの議論を通じて参加者が自らの性のprivacyが守られることについて不安を覚えるような事態を生じさせてはならない。zoomミーティングで自分が語った内容や提示した情報について、他の参加者のそれに対する受けとめ方が多様であることは当然としても、自分が関知しないところで自分が発信した情報が外に持ち出されて勝手に拡散されるようなことはない、意見は違っても互いのprivacyはきちんと守られるという安心感がほしい。
 そうした信頼関係は結局ゼミナールを進める中での参加者の人間関係の深まりを通じてしか醸成されないかもしれない。ただ考えておくべきは、私にゼミナール参加を申し込んでくる人は私との関係では(3)で述べた3つの個人情報を提出したことで最低限の個別の繋がりを形成しているけれども、(5)で述べたようにそれら情報をそのまま他の参加者に開示することは求めていないため、私以外の参加者相互は「知らない人同士」としてゼミナールをスタートするケースが多くなると思われる。それだけに、ややしちめんどくさくても上記のようなルールをつくっておくことがある程度の安心を生むのではないか。


 さて、最初からいっぱい細かいことを考えてきたが、すぐにでもこのゼミナールを発足させようというわけではない。前期2コマ・後期1コマの大学授業を抱えている現状では、とてもとてもこのような新しい学びのネットワークをスタートさせる余裕はない。しかし、せっかくここまで考えたのに、新潟大授業の終了予定の2026.3まで自分が実施を保留できるかどうかわからない。
 まあとにかく、ご意見をいただける方がおられたら承って、いましばらく温存することに致します。

コメント

このブログの人気の投稿

35 2023.10.21京都教育科学研究会第351回例会における佐藤年明報告「岸本清明氏の総合学習実践「東条川学習」(『希望の教育実践』所収)を新潟大生はどう学んだか?」と別添資料等を転載します

34 「隠れたカリキュラム(hidden curriculum)」考 ―佐貫浩『学校と人間形成』(2005)・『危機の時代に立ち向かう「共同」の教育』(2023)と佐藤の京都女子大・新潟大授業における受講生のリサーチ・討論から考える