44 教育学文献学習ノート(36)日本教育政策学会企画『Society5.0と揺らぐ公教育 現代日本の教育政策/統治』(晃洋書房)
(2024.8.30刊行 2024.12.27-2025.1.7通読 2025.1.8ノート作成)
この「教育学文献学習ノート」シリーズの一つ前の投稿は、
(35)児美川孝一郎『新自由主義教育の40年―「生き方コントロール」の未来形』(2024)の学びを深める https://gamlastan2021.blogspot.com/2024/12/4335402024.html
です。今回取り上げる日本教育政策学会企画の本書について、私は児美川氏の上記著書もしくは上記著書をベースにして行なわれた2024.12.8の教育学研究会教育学部会での児美川氏の講演の中で情報を得て本書を入手したと思っていたのですが、改めて児美川氏の著作及び部会報告資料を見直したところ本書に関する情報を発見することができませんでした。Amazonの注文履歴では本書を2024.12.18に発注しており、それは上記の児美川氏の著書に関する「教育学文献学習ノート」をブログに投稿した翌日ですので、この間の児美川氏の著作に関わる自分の研究作業の中で情報を得て発注したことは間違いないのですが、いやはや1ヵ月も経っていない最近のことなのに、自分の記憶の曖昧さに驚くばかりです。本書に出会い学んだことが自分にとって大変刺激的であったので、きっかけをいただいた児美川氏にまずは謝辞を述べようと思い書き始めたのですが、曖昧な話になってしまいました。
ともあれ、本書が私にとって刺激的であった理由をまず述べようと思います。件の学習ノート(35)の中で、私はこう書きました。
「湧き起こりつつある教育課程改革の動向について共同で分析検討することが必要」だということ。このことについて私は過去5年余りの間、教育科学研究会の活動(について自分が知り得ている動向)という視野の中で考えてきました。そして、自分がほとんどあずかり知らないエリアとして全教教研や民主教育研究所を想定していたのですが、本書を読み、実は日本教育政策学会という、方法学方面で仕事をしてきた私がその存在さえ恥ずかしながら知らなかった学会の中で、私が考えている教育課程改革の動向を含めた教育政策分析が活発に行なわれてきたことを知り、個人としての学びの経過の中で非常に嬉しい思いをしています。
本書の構成は冒頭に掲載した目次画像の通りです。
本書所収の各論文のうち、第1章(佐藤学著)・第3章(中嶋哲彦著)・第5章(石井拓児著)・第8章(高嶋真之著)・第9章(子安潤著)・第10章(柏木智子著)については、『日本教育政策学会年報』第30号(2023)掲載論文または同第31号(2024)掲載予定論文を大幅に改稿・加筆したものとの表記があることから、私は学会会員以外の目には触れることが少ない学会誌掲載論文をより広く世に問う意図で本書が編まれたものかと推測しながら読みましたが、横井敏郎氏の「あとがき」を読んで、本書の企画は私が捉えたような学会誌掲載論文のリライト集というような狭い意図ではなく、日本教育政策学会第10期(2020.7-2023.7)の課題研究テーマ「With/Afterコロナ時代の教育と教育政策/統治」の成果を世に問うものであり、横井敏郎氏と児美川孝一郎氏を中心に3月の公開研究会と7月の学会大会での、3年間で計6回のセッション、延べ14名の報告を踏まえて刊行されたとのことです。
私はかなり若い頃から、教育と教育研究の動向が変化する中どんどん新しく結成される教育学系の新しい学会にはあまり目を向けず、主に日本教育方法学会を中心に参加や発表を行なってきました。学会費の経済的負担とか、自分がいったいどれだけの量の研究情報をmanageできるかを考えれば、それは私個人としては間違った選択ではなかったと思うのですが、学会に所属するかどうかはともかく、諸学会の研究動向把握については、やろうと思えば現在ではネット検索等である程度のところまで行なえるわけであり、もっと努力してもよかったと反省しています。
教育という研究対象へのアプローチとして、行政・法・制度・政策などは、もちろんその重要性は一般的には認識しているつもりですが、研究者としての自分が主体的に取り組む分野ではないと考えてきましたし、今後もその考えを大きく変えるつもりはありませんが、日本教育政策学会という自分にとっては異質の研究分野の研究成果から学ばせていただく機会を今回得られたことを、大変ありがたく思っています。
さて、(その舌の根も乾かぬうちに、と言われそうですが)、自分にとって《異業種》ではないものの《異分野》の著作からの学びであることを口実に、勝手な学びとり方をさせていただきたいと思います。
まず、私が児美川孝一郎氏の新著から学んで書いた前出「教育学文献学習ノート(35)」の別の箇所を引用します。
私が学ばせていただいた児美川氏の著作からの引用部分を(中略)としていて失礼なのですが、私の問題意識についてはおわかりいただけると思います。
教育政策を巡る文科省と経産省、内閣府等の関係。これは進行中の事柄であり予断を許さないのですが、《政策通》ではない研究者である私としても目を離してしまえない重要事項であると思っています。
かい この点で児美川氏の新著からも多くを学んだのですが、今回本書を読んで、日本教育政策学会関係の研究者グループにも少しずつニュアンスの違う多様な見解が存在することがわかって興味深かったです。先に「勝手な学びとり方」と書いたのは、つまみ食いの誹りを覚悟で上述の「ニュアンスの違う多様な見解」をピックアップしてみようということなのです。(なお下記の一連の引用中の下線は佐藤によるものです。)
本書における各論者の行論の流れを無視して、教育政策決定過程における文部科学省と経済産業省や内閣府等の政府内の力関係、綱引き?に関わるコメントの部分だけを抜き出しました。乱暴にくくると《文科省が経産省や内閣府に引きずられている》ということになるかもしれませんが、当然ながらそれぞれの研究者によって細かい部分での評価はそれぞれ違います。教育方法学や教育課程論の世界でこうした異論を含んだ意見交換の機会に接したことが私にはなかったので、とても興味深かったのでした。
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